甘い支配の始まり《マンガ原作賞優秀作品》
翌日、同じような時間に紫乃ちゃんの部屋に行くと、ドアを開けるタイミングで
「あのぉ…」
と聞こえたが、聞こえないふりで部屋へ入る。絶対に外を覗いていたタイミングに女の紫乃ちゃんへの執着が窺える。俺としては、その執着が強ければ強いほど仕事が簡単だ。
今日は作業せず、紫乃ちゃんが持ち出して欲しいと言っていたものを入れたキャリーバッグを持ってすぐに部屋を出るとインターホンに指をかけた女と鉢合わせた。
「あのぉ…昨日もお会いしましたよね?紫乃のお友達ですか?」
「…一応…そうだけど…何か?」
キャリーバッグと共に通路に出ながら、興味なさげに素っ気なく答える。
「紫乃と連絡取れないんですよぉ。どうしちゃったのかな?」
「さあ?」
「えー知ってるんじゃないんですかぁ?その荷物は?」
「可愛い紫乃ちゃんの」
「やっぱり知ってるんじゃないですかぁ」
「退いて…邪魔」
距離ちけぇよ。
「彼氏さんですかぁ?」
「…あんた誰?なんでそんなこと答えないといけない?」
「紫乃と同じ階に住む友人の町田瑠璃子です」
「瑠璃子?知らない。聞いてないけど友達?紫乃ちゃんってめっちゃ可愛いよね?友達でよく知ってるなら、やっぱりそう思うだろ?」
とここで、壱曰く‘アイドルスマイル’を放つ。
「まぁ…紫乃…可愛い方ですかね?」
すげぇ返事だな。壱に聞かせてやりてぇ。