義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~
1.憧れの人



パーティーが終わると、義兄は同じホテルの一室に私を送ってくれた。

大学を卒業し就職のため、一昨日金沢のマンションを解約して都内に戻ってきた。そして昨日からこのホテル住まいだ。手配は義兄である。

実家の天ケ瀬家に泊まるのは最初から考えていなかった。親戚がよく出入りしているし、特に叔母夫妻と従兄妹は私のことを嫌っている。居づらい場所にいることはないと義兄がホテルを提案してくれたのは助かった。
しかし、国内最高級の老舗ホテルのセミスイート暮らしは贅沢すぎる。遠慮すると言ったのだけれど、セキュリティ的に安全なところにしろと押し切られてしまった。

部屋のドアで義兄は私を見下ろす。こうして見るとほれぼれとするほど綺麗な顔立ち。
ダークブラウンの髪はツーブロックでかっちりと固められている。同じ色の瞳は涼やかで、少し冷たくも見えるけれど美しい。185センチの長身は、156センチの私には見上げる高さだ。

「引っ越しは明日だ。おまえの荷物の搬入は午前。俺のものは夕方に業者が運び込む。おまえは何もしなくていい」

義兄は端整な顔を無表情に固定し、冷淡な口調で言った。

「うん……。あの、でも本当に同居なんてしなくても」
「まだ言っているのか? 決定事項だと伝えたはずだ」

呆れたように言うけれど、かなりすごい提案をしている自覚がないのかしら。
私は明日からこの人と同居する。

< 3 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop