義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~
事件から一週間が経った。

雄太郎さんの起こした事件に対し被害届は出さず、彼はすぐに自宅に戻ったそうだ。しかし、天ケ瀬株式会社から懲戒解雇されることとなった。今後私たちに接近しないようにという念書を代理人を通して取り交わしたと丞一から聞いた。

叔母夫妻は子会社の経営から退き、一家で東京から離れる。九州の縁者を頼るらしいと義父から聞いた。夫妻は事実上隠居となり、天ケ瀬家の集まりにも今後は顔を出さないだろう。

天ケ瀬本家の血筋である松美叔母の放逐に対し、事実関係を確認もせずに庇う声は親戚内で起こったそうだ。しかし、意見をしてきた親戚たちに義父と丞一は『罪を犯したものを庇うべきではない』と厳しい返答をした。
原賀家の横領、親族間での暴行を明らかにし、社長の実妹でも背けばこうなるという、はっきりとした見せしめとした。厳しい対応はそれ以上の批判を生む余地もなかった。

また丞一は私にこう求めた。

『天ケ瀬本社に転職を考えてほしい』

事件の直後にそう言われた。もう雄太郎を接近させるようなことはしないが、自分の目の届くところで守りたい。一切の危険が及ばないように尽くすから、言うことを聞いてほしい。そんな希望を丞一は口にする。

私は今の仕事が好きだ。
入社して三ヶ月。やりがいはあるし、オフィスの皆と仲良く仕事できているように思っている。なにより、この職場は自分で切り開いた道だ。簡単に捨てたくはない。
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