雨上がりの景色を夢見て
車から下ろす時、夏樹が雛ちゃんをおんぶした。寝ていたものの、背中にもたれかからせると、無意識に雛ちゃんは夏樹の首に腕を回して、落ちないような体勢をとった。

『…っ…会いたいよ…』

雛ちゃんの言葉に、私と夏樹は目を合わせた。

あっ…

『夏樹…雛ちゃん、泣いてる…』

夏樹の背中で、眠りながら呟いた雛ちゃんの目から、一筋の涙が流れ落ちた。

『そっか…』

夏樹は小さな声でそう答えると、エレベーターのボタンを押した。

『…ねぇ、雛ちゃんと貴史くんて…』

『夏奈、後で、ちゃんと中川先生から聞こう』

詮索しようとした私に、夏樹は冷静に言った。

『…うん』








「…まぁ、等身大の中川先生が見れたのかなとは思ったかな」

そう言って、夏樹は優しく微笑んだ。だけどどことなく、悲しげで、冷静な夏樹でさえ驚いたのだと伝わってきた。

「…雛ちゃん、今まで1人で抱えてきたのよね」

大和田さんの言った〝我慢強い〟という言葉を思い出す。

どんなに辛かった事だろう。時には押し潰されそうになりながらも、一生懸命耐えて、耐えて、自分の足で立ってきた雛ちゃんの心境を思うと、胸が痛んだ。



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