雨上がりの景色を夢見て
真っ暗な部屋の中に、開けた扉から廊下の明かりが差し込む。ちょうど、夏奈の寝ているベットを照らした。

眩しさで気がついたらしく、体を起こして長い髪の毛を掻き分けて、俺を見る夏奈。

「…おかえり」

ちょっと掠れた声だった。きっと恐怖で、泣いていたのだと思う。

「ただいま…。大丈夫?」

「うん、平気」

淡々と会話をする俺たちの間には、毎年同じような空気が流れる。

夏奈のベットに腰掛けて、手に持っていた飴玉を1粒、夏奈に渡した。

電気スタンドをつけて、受け取ったものを確認する夏奈。

「…夏樹がこんなに可愛らしい飴持ってるなんて、珍しいわね」

キラキラ輝く包装の飴玉をまじまじと眺めながら、夏奈が呟いた。

「中川先生がくれた」

「雛ちゃんか、納得」

中川先生の名前に、夏奈が笑顔になって、俺は内心ほっとした。

「魔法の飴なんだって」

「…魔法の飴。願い事叶うのかしら」

そう言ってふふふっと笑うと、夏奈は飴玉を電気スタンドの横に置いた。

虹色の綺麗な飴玉を見つめ、何かを考えている夏奈。しばらくして、口を開いた。

「明日、検査に持っていくわ。お守りがわりね」

その言葉に、俺は小さく頷いて立ち上がり、

「じゃあ、おやすみ」

そう言って、部屋を出た。
< 179 / 538 >

この作品をシェア

pagetop