雨上がりの景色を夢見て
第9章 青春の中の思い出
だいぶ過ごしやすくなった9月中旬。2週間後に迫った文化祭に向けて、放課後の校舎内が賑やかになる時期。

開けっぱなしの扉から、廊下を行き来する生徒たちの姿が見える。

保健室で仕事をしながら、この時期に多い、金槌やカッターなどでの怪我をしてくる生徒の対応に備えていた。

高梨先生とは、校内では日中ほとんど遭遇することはない。それは付き合う前からもそうだった。

放課後、生徒達がほとんどいなくなって、職員室に戻った時に、少し話をするかしないか程度。

お互い特に相談はしていなかったけれど、自然とそういう関わり方を継続している。

「先生…指切った…」

3年生の女子生徒が指を押さえながら、開けっぱなしの扉から顔を覗かせる。

「あらあら、結構血が出てるわね。傷口見せて。カッター?」

涙目で頷いた女子生徒は、3年A組の石田梅さん。傷を抑えていたハンカチをそっと外す。

「ちょっと深いわね。でも縫うほどではないから安心して」

処置をする私の手元を、鼻をすすりながらじっと見つめる石田さん。

「石田さんのクラスは何をするの?」

「…お化け屋敷です。先生も当日来てくださいね?」

「…先生、怖いの苦手なのよね…。入るのは遠慮しておくけど、石田さんの頑張りは見に行くわ」

お化けが怖いというより、暗闇になってしまうことが懸念する理由だった。

「先生、怖いのダメなんだ。意外」

処置の終わった石田さんは、すぐに立ち上がり、

「ありがとうございました」

と、丁寧に頭を下げて保健室を後にした。





< 237 / 538 >

この作品をシェア

pagetop