雨上がりの景色を夢見て
その瞬間、クスッと笑った高梨先生。

「敬語、3回使ったら、俺のお願い聞いてくれる?」

「お願いって…昨日の?」

「んー…昨日考えてたのとは違くするよ」

「頑張り、ます」

「あっ、一回目」

「あっ…」

高梨先生は、クスッと笑って、赤信号で車を止める。

「…つい、使っちゃう…」

照れ臭くて、視線を自分の手元に向ける。

「じゃあ、5回までにしようか」

青信号に変わり、車を走らせると、言葉を続けた。

「そのかわり、お願い2つ」

思わず驚いて、高梨先生の横顔をまじまじと見る。少し意地悪そうに微笑んで前を見たまま、私の返答を待っている。

高梨先生だから、無理なお願いはしないよね。

「…分かりました。あっ」

2回目を言ってしまい、思わず自分の口元を押さえる。

励ましなのか、高梨先生は前を見て運転したまま、左手で私の頭にぽんっと優しく触れた。

この調子じゃすぐに5回は言ってしまう。






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