雨上がりの景色を夢見て

side 高梨兄妹

「雨降ってきたね」

空が灰色がかっていたこともあり、少し気持ち急いで校内を回ったけれど、帰る頃には外はパラパラと雨が降ってきていた。

「私、折り畳み傘持ってますよ?よかったら一緒に使いましょう」

空を見上げる藤永先生に声をかけて、開いた傘を半分被せる。

「…ありがとう」

そう言って、すっと私の手から傘を抜き取った藤永先生の無駄のない動きに感心する。

初めて入院した時、まだ30歳になりたてだった藤永先生も、もう40代半ば。月日の流れを実感して隣を歩く藤永先生を見る。

「…どうしたの?」

「えっと…お互い年取ったなぁって」

冗談混じりにそう言うと、藤永先生もふっと笑う。

「初めて会ったのは、夏奈さんが社会人1年目の時だったかな…。これまで、頑張ってきたね」

〝頑張ってきたね〟という言葉が胸に刺さる。頑張れたのは、弱くて押しつぶされそうになった私を沢山のひとが支えてくれたから。

「先生方のおかげです」

「ありがとう」

隣を歩く藤永先生は、眼鏡の奥の瞳で優しく私を見つめる。

先生のこの眼差しに、私は入院中、何度も救われた。




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