雨上がりの景色を夢見て
「…でも、私、身体に傷が…」

皮膚にも、そして女性として大切な部分にも。

「もう、傷じゃないよ。夏奈さんの大切な身体の一部じゃないか…」

えっ…。

そんなこと言われたことは初めてで、劣等感の塊だった私の気持ちに少しだけ光が差したような感覚になった。

「綺麗だよ。君はとても綺麗なんだ…」

「…っ…」

藤永先生の言葉が、私の体の奥底まで響き渡り、身体全体を包み込む。

雨に混じって、涙が頬をつたう。

「…でも、子どもが…っ…」

「君が元気でいてくれるだけで充分だよ…。それに今は色々な制度があるから、それは夏奈さんの気持ちと相談して決められることだよ…」

そう言って、私の体を両手で優しくそっと包み込む藤永先生。雨が強くなり、二人の身体をずぶ濡れにする。

私は、濡れた前髪の間から見える藤永先生の瞳を見つめた。何も言わずに、ただ見つめる私に優しく微笑む藤永先生に、胸が締め付けられ、気がついたら首に腕を回して、私から身体を委ねてキスをしていた。

これが、私の答え。

誰かと一緒に人生を歩むことへの、不安や恐怖、申し訳ない気持ち。

独身を貫こうと決めていた、自分への強がり。

今まで自分を塗り固めてきた気持ちが、ひとつひとつ剥がれ落ちていく。











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