雨上がりの景色を夢見て
「貴史に会って行って。あそこにいるよ」

おじさんの視線は、リビング横の和室にある仏壇に向けられた。

ゆっくりと近づき、正面に正座をする。綺麗なお花の隣には、貴史の弾けるように笑った表情の写真がある。

「…っ」

線香を手に取り、蝋燭に近づけて火を移す。白い煙が天井に登っていった。

隣に、すっと高梨先生も座り、線香を手に取った。

私は、先に手を合わせて目を瞑り、心の中で貴史に話しかける。











私は、あの頃とっても幸せだったよ。いつも優しく包み込んでくれる貴史の眼差しに、何度も何度も満たされて、救われた。

今でも、貴史は私の大切な人。それはこの先も変わることは無いけれど、今隣にいる高梨先生と前に進もうって思えてるの。

幸せな時間を過ごせてる事に、感謝をして前に進むから

貴史

見守っててね…。









「お茶入ったわ。イスに座って休んでね」

立ち上がった私と高梨先生に、貴史のお母さんが優しく声をかけた。

ふわっと緑茶の香りが届き、私は貴史のお母さんの向かい側に、高梨先生はお父さんの向かい側に座った。

「豆大福もどうぞ。この大福ね、近所のパン屋さんで最近作り始めたのよ」

「もしかして、あんぱんが美味しいところですか?」

高梨先生が、尋ねると、貴史のお母さんが笑顔で頷いた。

「雛ちゃんに聞いたのかしら?あんこが美味しいお店だから、大福もとっても美味しくて。どうぞ召し上がって」





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