雨上がりの景色を夢見て
「気を遣わなくてもよかったのに…」

「何言ってるのよ。私の手抜きのお昼ご飯出せるわけないでしょ」

お母さんは恥ずかしそう言って、醤油用の小皿を並べ始めた。

そんな母に近づいて、

「あの…これ、お口に合うといいのですが…」

と緊張した様子でそう言って、母にシュークリームのが入った菓子箱を差し出した高梨先生。

「ご丁寧に、ありがとうございます。ここのシュークリーム美味しいのよね」

ニコッと笑った母に、高梨先生はほっとした表情に変わった。

「座りましょう」

母の言葉で、3人揃ってお寿司の前に座る。

「さあ、新鮮なうちに食べましょう」

「あ、あの…その前にあらためてよろしいですか?」

手を合わせようとした母に、高梨先生は、背筋をまっすぐ伸ばして声をかけた。

母は、合わせかけた手を下ろして、私と高梨先生を交互に見る。

「雛さんとは、今同じ高校で働いています。まだ付き合い始めて長くはないのですが、今、結婚を前提としてお付き合いさせていただいています」

母は何も喋らず、黙って高梨先生の言葉に耳を傾けている。

「雛さんのお母さん、僕に…」

そう言いかけた時、玄関の扉がバタンッと音を立てて、廊下をバタバタと走ってくる音が聞こえた。

ガチャッ

「よかった…まだ居てくれた…」

息を切らせたスーツ姿の仁さんが現れて、私も高梨先生も驚いて固まった。










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