雨上がりの景色を夢見て

side 高梨兄妹

「はい、今日は私の家に泊まります。あと…幼い頃の記憶も思い出したようです。…分かりました。気にかけたいと思います。はい。失礼します」

病院の建物の外で、雛のお母さんに、目を覚ましたことを伝える電話をかけた。

お父さんとの幼い記憶を思い出したと聞いた雛のお母さんは、雛の心理的な面をものすごく心配していた。

その気持ちは、とてもよく分かる。

だけど、さっき病室で、俺のいる安心できる場所があるから大丈夫だと言ってくれて、心の底から嬉しかった。

同時に、だからこそ、どんな事があっても、目の前の彼女を守り抜きたいと強く心に誓ったのだ。

自動ドアを抜けて病院内へ入り、雛のいる病室へ向かいながら、今日連絡をもらった時のことを思い返す。

部活指導がお昼の12時に終わり、汗を拭いて職員室へと戻ると、ジャージのポケットに入っていた俺のスマホが鳴った。

雛のお母さんの表示があり、珍しいと思いながら電話に出ると、少し焦ったようなお母さんの声が電話越しに聞こえた。

『高梨さん、今、東総合病院から電話があって、雛が倒れたって…。父親に会いにいって、その病院で倒れたらしいの』

えっ…

『すぐに行ってあげたいけど、昨日から菜子が熱を出してて、仁さんも明日まで出張でいないの…』

『俺が行きます。雛の状態は…?』

『今、血液検査をして結果待ちよ。あの子の事だから貧血の可能性が大きいと思うけど…』

『分かりました。すぐに向かいます。詳しい事が分かったら、また連絡します』

俺は急いで荷物を持って職員室を出た。途中で、ジャージが泥だらけで、流石にこのままでは衛生的に良くないと思い、更衣室のロッカーに入れておいた予備のスーツに着替えた。

運転している間、俺は動揺がおさまらず、ずっと心が落ち着かなかった。

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