雨上がりの景色を夢見て
「私、全然気が付きませんでした。こんな近くにいたのに」

坂本先生は、交互に私と高梨先生を見て、頬を膨らませる。

「…皆さんに気がつかれないように…と思っていたので」

遠慮気味にそう答えると、坂本先生は、私に椅子ごと近づいてきて、小声で話した。

「…首元のステキなネックレスも、高梨先生からだったんですね」

「えっ…」

坂本先生の質問に、自分の顔が熱くなっていく。

「珍しいなって思ってたんです。でも、今日納得しました。高梨先生、センスいいですね」

今まで、ネックレスの話題に触れなかった坂本先生だけど、気がついてたんだ…。

ふと、坂本先生の大きなお腹が動いたのが目に見えて分かり、視線をお腹に向ける。

坂本先生も手を当てて、ふふっと微笑んだ。

「5月には生まれるんですね」

坂本先生は、4月から産休に入る。寂しくなるなと思っていたけれど、私も異動になって、あまり実感が湧かない。

「そうね。あっという間。お休み入ったら、一緒にお茶しましょう?育児で忙しくなる前の、束の間の自由時間に」

坂本先生はそう言うと、机の上の付箋に、連絡先を書いて渡してくれた。

「はい」

ほとんど、職場の人と連絡先を交換しないから、なんだか新鮮な気持ちでとっても嬉しかった。

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