パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
「貴堂さんも楽しみに? では私も楽しみにしますね」
 そう言って紬希はにこりと笑う。
 貴堂はいつもにこにこしている人が好きだ。

 紬希は最初こそ硬い表情をしていたけれど、心を開いた相手にはこうやって相手が和むような綺麗な笑顔を見せてくれる。

 最初に見たときからこの笑顔を自分に見せてくれたらと思っていた。その笑顔だ。
 それが貴堂は好きなのだ。

──こうしていてもきりがなくなってしまうな。

 貴堂は席を立った。
「遅い時間にごめんね。また明日迎えに来るよ」
「はい」

 そう言って一緒に席を立った紬希を、作業場の入り口で貴堂は手の平を紬希に向け、止めた。

「ここでいいよ。車はすぐそこに停めてある。また明日」
「はい……また明日」
 少しは紬希が名残惜しいと思ってくれたらいい、と貴堂は心から思った。

 作業場の階段を降り、上を見ると紬希が少しだけ照れくさそうに手を振ってくれている。
 貴堂もそれに手を振り返して、名残惜しい気持ちを振り切って駐車場に足を向けたのだった。


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