パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
──私だわ。

 それを溶かして前向きにさせてくれたのは貴堂だ。

 頑なだった紬希に何度も何度も『君はすごい』『尊敬している』『誇らしい』と伝え続けてくれた。

 紬希ですら、素敵なのだと明らかに分かる人に、何度も伝え続けられたのだ。
 その敬意も愛情も、信頼も覚悟も、全部全部紬希には伝わっていた。

 気付いたら紬希の頬をたくさんの涙が流れていた。

──貴堂さんはずっと、ずっと伝え続けてくれていたのに……っ。

 信頼するだけの勇気を持てなかったのは紬希の方なのだ。
(私は信じます。私を信じてくれる貴堂さんを信じる)
 その時だ。携帯に着信があった。

──え?雪ちゃん?

「はい」
『紬希、すぐに空港に来れるか?』

 珍しく切羽詰まった声だ。
 紬希は胸騒ぎがした。

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