パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
「通常通りとは言えない。ただ、そのための訓練を僕らは受けている。信じるしかない。あとから知るのでは嫌だろうと思って呼んだんだ」

 確かに紬希はとても動揺しているのだけれど、雪真にはそれほどの動揺は見えない。
 信じるしかないと言われて、紬希はハッとした。

 雪真は紬希を近くの椅子に座らせる。そうして自分もその隣に座った。

 雪真が覗き込んだ紬希の顔が今までと違うことに雪真は気付く。真っ直ぐに雪真を見返しているのだ。

「雪ちゃん、私貴堂さんを信じると決めたの。ありがとう。後から知るのでなくて良かった」
「今起きていることを説明する?」

「お願い」
「貴堂さんの機体は今から30分ほど前に出発した羽丘発パース行きだ。予定していたパイロットが乗務できなかった関係でスタンバイだった貴堂さんが呼ばれて乗務した」

 紬希はこくりと頷く。スタンバイというのがあって様々な理由で乗務できなくなったパイロットの代わりに乗務することがあるのだとは貴堂から聞いていた。

「火災が起きたのは離陸して15分ほどだ。管制とのやり取りによると、右エンジン部から大きな音がして、炎が上がったのが見えたらしい。炎は今鎮火している」
 それを聞いて紬希はホッとした。
< 180 / 272 >

この作品をシェア

pagetop