パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
 一番奥がコックピットだった。
 ボタンやスイッチのたくさん配置されたコックピットを目にした瞬間、貴堂が瞳をキラキラさせている姿を紬希は見たのだ。

 胸がきゅんとなるくらいに可愛らしく見える。いつもは大人なのに子供のようにはしゃいでいるから。

「コックピットすごいな……」
「飛行機のものと似ていますか?」
「うん。とても似ている。似ていて異なっている。とても興味深いよ」

 キャプテンはとても話好きな人のようで、潜水を安定させたらいろんな説明をしてくれた。

 見えている綺麗な色の魚や魚礁について、また海を守る話など、とても興味深いものだったが貴堂には特に潜水艦の操縦についての話が楽しかったらしい。

「目的の深度で水平にするためにはメインバラストタンクに必要なエアを送り込み浮力を調整する必要があります。そうしないとドンドン沈みます。更にその深度を維持して真っ直ぐ水平航行するためには時々刻々変化する海水密度に合わせてこの浮力を調整し続ける必要があります」

「波の影響もあるんですか?」
 貴堂はそう尋ねた。
 キャプテンは笑って頷く。

「そうですね。海流の影響はありますね。流されて向きや方角が分からなくなっちゃうかもしれませんね」
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