パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
 それにも触れた貴堂は軽く目を見開く。
「触れた感じが先程と全然違うね」

 紬希は笑顔になった。
 分かってもらえることが嬉しい。

 実際ブロードクロスは布地にややツヤ感があり、比較するとコットンリネンはマットと表現される生地だ。

 見た目にも風合、雰囲気が全く異なるものなのだ。
 そしてどちらも悪くはないが肌触りの好みがある。

「厚みはあまり変わらないんです。厚くもなく薄くもないです。でも、肌触りは多分お好みがあると思うんです」

 隣の貴堂が真っ直ぐ布に向き直る。
「真剣に選ぶよ。他のは?」

 紬希は笑って、次の生地を見せた。
「こちらです。ピンポイントオックスフォードと呼ばれています」
「ああ、オックスフォードという生地がある、というのは聞いたことがあるな」
 貴堂は顎に手を当てて、考えるような仕草を見せた。

「はい。その一種なんです。本来のオックスフォード生地というのは少し粗めで、ボタンダウンシャツにも使われていますね」
「そう言われると分かる!」

 紬希に説明されると分かったようで、こちらの布にもそっと触れている。
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