パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
2.手縫いのシャツ
 次に貴堂と花小路の搭乗が一緒になったのは、1ヶ月程も後のことだった。

 JSAのパイロットの勤務は、月に国際路線2回の搭乗ののち、3日間の休みを挟み、4回ほどの国内線乗務と休み、デスクワークと待機の組み合わせになっている。

 その国内線勤務の際に搭乗が被ったのだ。
 JSAほどの会社で1ヶ月の間に機長と副操縦士の勤務が重なることは珍しい。

 今までも花小路とフライトが一緒になることはあった。花小路のイメージは真面目で物静かという印象だ。
 確かに顔立ちは極めて美麗だという評判通り、整っているなとは思ったけれども、だから何だという話である。

 ただ、この前のデッキでの印象の方が余程衝撃だった。

 ブリーフィングを終え、機体の点検を終えた貴堂はフライトバッグを持って、ボーディングブリッジに向かう。

 ボーディングブリッジから見える空は、雲ひとつない。この日は快晴で、航路や気候にも問題はなく、平和な気持ちの良い飛行になりそうだ。その太陽の眩しさに、一瞬貴堂は目を細めた。

 機内でのブリーフィングを終え、コックピットに入ると、花小路が改めて挨拶をしてきた。
「よろしくお願いいたします」

 そう言う彼は相変わらず綺麗だけれど、愛想はない。
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