サクラ、咲く



真大の手紙は

亡くなる前日に書かれたものだった


「・・・なに、よ」


ごめんだなんて・・・


「ま、ひろっ」


言い逃げなんて狡いんだからね


生まれつき心臓が弱かった真大は
外に出ることすら制限があった


だから、いつもこの部屋に遊びに来ては
並んで座って本を読むのが小さな頃からの楽しみだった


真大と居られるのならば
それで十分だったし

物足りないと思ったこともなかった

いつも一緒にいるのが当たり前で
いつから好きだったのか

思い出せないほど真大しか見えていなかった


『好きだよ』


そう告白された日のことは
今でも鮮明に覚えている


嬉しくて、嬉しくて
涙を隠すために抱きついた私を

真大は細い身体で支えてくれた


唇を合わせただけのキスも
数えきれないくらいした


それ以上は望んではいけないと思っていたから


キスだけでも幸せだった


制約は沢山あったけど
一緒に居られるなら

なんでも我慢できると思っていたのに


神様は意地悪で
真大を連れて行ってしまった

神様はいないと罵った私に

叔父さんと叔母さんは
本当は中学生にもなれないと宣告されていたことを教えてくれたから


慌てて神様に謝ったっけ



18歳の誕生日に撮った写真は
笑顔で頬を寄せたもの


そして・・・


この手紙を書いた日だ


病室で写真を撮ったあと
二人でケーキを食べて


面会時間が終わるまで一緒に過ごしたあと


必死でこれを書いたのだろう


発作と呼吸困難で苦しい中
書いた字は乱れていて


その真大の想いに涙が落ちた


「真大がいなきゃ、ただの泣き虫なの」


他の人に託すなんて
なんでそんな寂しいこと言うの?


世界はこんなに美しいのに
なんで真大だけがいないんだろう


毎日毎日そう思って泣いていた日々からすれば


私は前に進めている


でもね


真大のいない人生なんて
炭で塗りつぶされたようなもの


心を置き去りにした日から


私は本当の意味で笑えなくなった



こんな私のことを想像していたのだろうか


いつもの柔らかな真大の口調が並ぶ手紙は


真大の優しさが溢れていて


7年も経って出てきた手紙に


7年振りに声を上げて泣いた




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