サクラ、咲く




side 翔樹




咲羅に指示された通りに買い物を済ませると足早に集合場所へと戻った

そこには優樹さんの姿しか見えなくて辺りを見回す


その視界に入ってきたのは昴だけだった


・・・咲羅


まだか


人出の多い週末のマーケットは
安全も危険も確立が高い


咲羅の向かったであろう野菜コーナーの方を見ながら

不安が持ち上がる俺の耳に着信音が聞こえてきた


Prrrrrrrrrr


ポケットから携帯電話を取り出す優樹さんを見ながら


もう一度視線を周囲に向けようとした瞬間

携帯電話を耳に当てた優樹さんの表情が一変した


「翔樹、西の6ゲート、外だ」


「クソッ」


マーケットを飛び出した先には
既に動いている二ノ組の目が見えた


足音を消しながら、要所に配置されている目の誘導で走る俺の耳に




(翔樹)




胸を締め付けるような
咲羅の苦しい声が聞こえた気がした、刹那



「キャァァ」


微かに届いた悲鳴に
身体中の血液が沸き立った









「咲羅っ」









駐車場の隅



既に周囲を囲まれた中に



フードを被った男の背中と地面に倒れている咲羅の姿を確認した瞬間



渦中に飛び込もうとした俺を






優樹さんの腕が止めた



「あ゛?」


「翔樹が優先すべきは咲羅だろ」


「・・・・・・・・・チッ」


「アレは俺に任せろ」




・・・優先すべきは咲羅



あっという間に拘束された男を確認しながら


「咲羅っ」


放心状態の咲羅に近づいて腕の中に抱き込んだ


「・・・・・・と、きっ」


「遅くなって悪りぃ」


「・・・っ、翔樹」


「もう大丈夫だ」


「・・・ん」


男が拘束される様子を背後に感じながら咲羅の視界を遮りつつ声をかけ続ける


周りから人の気配が消えて
優樹さんだけになったところで

ガタガタと震える身体を少し離して
咲羅を頭の天辺から確認していく


「どこが痛てぇ?」


頬と肩、腕・・・順番に触れていくと
咲羅が両手のひらを見せた


「・・・っ、血が出てる」


「・・・膝も」


「・・・酷いな、他は?」


「あとは、背中」


「背中?」


「押されたの」


「チッ、橘行くぞ」


「うん」


抱き上げた咲羅は歯がカチカチと鳴り
あり得ないほど震えていて
いつもとは違って俺の胸に擦り寄ってくる


「昴っ」


「此処にっ」


待機していた車に乗り込んだ瞬間


「・・・野菜」


咲羅は俺に抱きついたまま
悔しそうにそう呟いた




side out

















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