サクラ、咲く



side 翔樹



吏美バァのひと声で立ち上がった咲羅は
背筋を伸ばして『二度目まして』なんて二回目の自己紹介をした


・・・危うい種ってなんだよ


始まったばかりのリハビリとも言い難い付き合いを
咲羅なりの表現にしたのか
思わず首を傾げそうになった


それでも・・・
慣れない此処で頭を下げた咲羅に
俺ができることは一緒に頭を下げて
咲羅を顔を覚えて貰うくらいのことで


隣に並んだところで親父まで出てきた


歓声と共に友好的な雰囲気に包まれたことにホッとし過ぎて

咲羅を独占出来ないことに気づいた時には


咲羅は野郎達に囲まれた後だった



「先生っ、歯ブラシって・・・」
「あ、の・・・自分はっ」
「橘では指名できるんっすか?」
「若とはどこで・・・」
「爪楊枝って・・・」



漏れ聞こえてくるのは野太い声と
丁寧に答える咲羅の笑い声

望んだことなのに
現実は歯痒さしかなくて


「翔樹、飲め飲め」


そんな俺は
隣に座る朝陽さんと優樹さんに宥められながら
咲羅を囲む野郎達が捌けるのを待つしか出来なかった


そして


「お前ら、そのへんにしとけ」


咲羅を救い出したのは


「「「「「会長っ」」」」」


吏美バァにしか興味ないと思っていた爺だった


「珍しいな」


これには優樹さんも驚いた


それに


「・・・っ」


突然現れた爺に驚いた咲羅は
爺を見上げて固まった


「咲羅、爺さんだ」


「あ、・・・咲羅、で、す」


慌てて頭を下げるとことか
無意識だろうが可愛過ぎる


「クッ、あぁ、知ってる」


・・・なんだよ、爺まで咲羅に甘いのかよっ


「注がれるまま飲んだら潰れるぞ」


「・・・は、ぃ」


いい感じに酔っているから
隙しかねぇ咲羅をこれ以上此処には置いて置けねぇ!!


「咲羅、行くぞ」


「・・・ん」


ユラユラ揺れる目は俺を映しているのに
どこか危うく定まらない


「翔樹、若けぇな」


爺の茶化しを無視して咲羅を抱き上げると
とりあえず野郎達をひと睨みして大広間をあとにした






side out



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