極上男子短編集

逃亡

次の朝になると高熱が出ていないだろうか。


そんな期待をしながら眠ったけれど、朝は嫌になるくらい清々しく目覚めてしまった。


もちろん熱も出ていないし、風邪らしい症状もない。


ためしに母親へ「お腹が痛い」と言ってみたけれど、「すぐバレる嘘はやめなさい」と、取り合ってもらえなかった。


私は昔から嘘をつくのが下手だった。


仕方なく家をでてダラダラと歩いて学校へ向かう。


いつも吠えてくる近所の犬も、今日はうるさいだけで可愛くない。


撫でてもらえなかったことに腹を立てたのか、鎖に繋がれた状態でグルグルと周り始めてしまった。


そんな様子を見てしまうとほっとくこともできなくて、結局いつもどおり犬をひと撫でしてからまた歩き出す。


学校の校門が見えてきたころには気持ちはすっかり沈んでしまって、足取りは重たくなっていた。


「沙織、大丈夫?」
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