僕は青春に別れを告げる
透谷(とうや)先輩」
肌寒い空の下、卒業証書を片手に、声のした方を振り向くと、黄色のラインが入った上靴の男子生徒が一人、佇んでいた。
「なあに?後輩くん」
黄色のラインの上靴、すなわち高1のこの男子生徒は、私の可愛い後輩である。
「ご卒業おめでとうございます」
「ありがと」
彼の言葉に、私は不意に、卒業の寂しさにおそわれる。
「でも、先輩が卒業出来て、よかったです。ほっとしました」
「はぁ?」
「え、だって、一時は留年確定かもって泣きかk……」
私と彼の2人しかいないからといって、恥ずかしい秘密を暴露されるわけにはいかない。後輩くんの口調に危機感を覚えた私は、応急処置で彼の口を両手で塞ぐ。
が、すぐに外され、そのまま彼の頬にぴたりと当てられる。

「つめたっ!」
「…」
いいムードになりかけたものの、私の一言で一気に崩れていくのが分かった。
「じゃあ、最後に」
「なんだい?」
「連絡先教えてください」
「…ほれ」
「ありがとうございます」
「ん」
「先輩あの、」
「うおーい!!!!!!」
後輩くんが何かを言いかけたところで、同クラだったメンツがこっちに向かって歩いてきた。
「かやー!これから打ち上げいがね~?」
「おけま~」
そう言って後輩くんに視線を戻すと、少し拍子抜けしたような、苦笑いのような、そんな表情を浮かべていた。
「あっ、先輩、打ち上げ楽しんできてください」
「休み中、連絡するんだぞ?」
「…はい」
「じゃ」
卒業式に彼から特に何も言われなかったことに、自分でも分からない物足りなさを感じながら、私は友だちの元へと駆けていった。
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