愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

 一瞬、シャーリィの身体(からだ)(ふる)える。恐怖がシャーリィの精神を乱した。
 思わずまぶたを上げたシャーリィの瞳に、(ひたい)から血を流しながら声を上げるウィレスの姿が映る。

 切られた前髪の合間から、普段は見ることのできない、彼の瞳が(のぞ)いていた。
 幼いあの日と変わらぬ瞳。ただ一心に、シャーリィだけを見つめる、強い金色(こんじき)の瞳が……。
 
(お兄様……。私、人生の一番最初から、ずっとお兄様に守られて生きてきたのね。「嫌い」と言って反発しても、ワガママばかり言って振り回しても……それでも、ずっとそばで守っていてくれた。今も、そんなに傷だらけになってまで……。私は何一つ、お兄様に返していないのに)
 
 いつの間にか、恐怖は吹き飛んでいた。
 
(……お兄様。お兄様がいてくれたから、私は宝玉姫の運命に()えてこられた。お兄様がずっとそばで支えてくれたから……)
 シャーリィはウィレスへ向け微笑みかけると、光の宝玉を高く(かか)げた。

(大好きよ、お兄様。お兄様のいない世界に、私が生きる意味なんて無いわ)
「光の宝玉よ!アーベント・クライトの心を、我が意に(したが)わせよ!」
 (するど)く叫ぶ。

 声と同時に、その場が光に包まれた。
 黄金より(さら)(まばゆ)い白金の光が、世界を(おお)い、景色を()り替えていく――。
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