愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

 再び、景色が()き消える。アーベントは変わらず、竜に身を(さいな)まれ、(うめ)いていた。
「やめろ。奪うな!忘れさせないでくれ!俺の想いを……!」
 
 その叫びに、シャーリィは(さと)った。
 竜が喰い千切っているのは、アーベントの肉体(・・)ではない。彼の精神(・・)、そして、セラフィニエに対する想いだ。
 記憶の中にある想いさえも奪い取り、竜は彼の心の全てを支配しようとしている。
 あの竜は――光の宝玉の力が具現化したものなのだ。
 
 再び、竜がアーベントの肉を喰い千切る。彼の記憶が洪水(こうずい)のように押し寄せて来て、シャーリィは目眩(めまい)を覚えた。

 めまぐるしく現れては消える光景。その全てに、アーベントのセラフィニエに対する想いが(あふ)れていた。
(……駄目(だめ)。やめて。これを奪ってはいけない。こんなに深くセラ姉さまのことを想っているのに……それを、竜神の力で無理矢理に奪い取るなんて、そんなことが許されるはずがない!)

「もうやめて!」
 シャーリィは光の宝玉を強く(にぎ)り、声を上げた。
 だが、白金の竜は止まらない。新たな血潮(ちしお)が、暗闇(くらやみ)の世界にまたアーベントの記憶を描き出す。
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