愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
11 愛され聖女の背負うもの

「大丈夫。そんなに心配しないで。こんなことには慣れっこだから」
 私室に下がり、紅茶で一息ついたシャーリィは、未だ心配そうな顔で見つめてくるアーベントに笑ってみせた。だが、その笑顔はいつもよりずっと気弱で、儚げに見える。

「姫様……」
「光の宝玉姫にとって、()けては通れない道なのよ。だって、私の周りにいるのは、私をまともに(・・・・)愛してくれる人達ばかりではないのだもの」
 アーベントは口を開きかけ、だが何もかける言葉が見つからないと言うように、すぐにその口を閉ざした。

「……八歳の時だったわ。私に熱心に求婚してきてくれた人がいたの。でもその人、私より十五も年上で……だからね、丁重にお断りしたの。そうしたら……その人、翌日、宮殿の裏庭の木で首を()って死んだの。私は見ていないのだけれど、その足元には、求婚に応じなかった私への恨みと憎しみを書き(つづ)った遺書が残されていたそうよ」

 シャーリィは顔を伏せ、紅茶の上に映る(ゆが)んだ自分の顔を(なが)める。
「十歳になった頃からかしら。さっきのように、想いが叶わないなら一緒に死んでくれという男の人達が現れだしたのは。それだけじゃないわ。私を無理矢理(さら)って行こうとする人達もいた。幸い、今まで全部、未遂(みすい)()んでいるけどね」

 シャーリィの声には、何の感情も()もっていないように聞こえる。何も感じないように、心が波立たないように、自分の感情を(おさ)えているのだ。

「私物を盗まれるのも、誰かに後をつけ回されるのも、四六時中視線に(さら)されるのも、よくあること。光の宝玉姫としては当たり前な、日常茶飯事なのよ。でも悪いのは、そういうことをする人達じゃない。光の宝玉が全て悪いの。光の宝玉の強過ぎる魅了の力が、あの人達の心をねじ曲げてしまうのよ。つまり悪いのは……光の宝玉姫である私の方」
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