愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

 彼らの母、すなわちリヒトシュライフェ王妃マリア・イーリスは、王女を産んでしばらくした(ころ)から身体(からだ)を弱くしており、季節や気候が変わるたびに病の床に()す。
 命に関わるような重病ではないのだが、妻を溺愛(できあい)する国王は、そのたびに王妃の病室に()もって出て来なくなるのだ。

 当然政務は(とどこお)り、王太子とはいえ、未だ帝王教育も充分に終えていないウィレスが国王の代理として()り出される羽目(はめ)になる。
 もっともウィレスはその歳で(すで)にかなり実務能力に()けており、国王よりもよほど迅速で的確な仕事をすると(もっぱ)らの評判だった。
 
「お父様ったら相変(あいか)わらずね。また皆を困らせて……」
 言いかけ、ふっとシャーリィは真面目な顔になった。
「ねぇ、お兄様。お母様は本当に大丈夫なの?」
「心配無い。侍医(じい)も、ただの風邪だと言っている」

「そうではなくて……。こんなに頻繁(ひんぱん)にお風邪を()されて……、お母様はお身体(からだ)の弱い方だから、そのうちにこじらせて大変なことになったりしないかしら?お父様も、それを心配なさって、病のたびにお母様につきっきりになられるのでしょう?」
「大丈夫だ。元からお身体が弱かったわけではないのだし、滋養の良いものを()り、適度に身体を動かしていらっしゃれば、丈夫(じょうぶ)なお身体に戻るはずだと侍医も言っている」

「本当にそんなことで良くなられるなら、とっくに良くなられていていいはずじゃない。もう、十三年近くもあんな状態なのに……」
 シャーリィは一瞬言葉を切り、唇を()みしめた。

「ねぇ、お兄様。本当のことを言って。皆が噂しているように、お母様は本当は、肉体の病ではなく精神の病なの?お心が弱ってらっしゃるから、お身体(からだ)も弱くなってしまわれたの?お母様が本当に愛していた方から引き離されて、無理矢理王妃にされてしまわれたから……」
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