夢見るだけじゃ終われない 〜恋と令嬢とカクテルと〜

「えっ、どうして!?」

 身体にフィットした細身のブラックスーツにハイブランドの靴。
 ハーフアップした髪はあの日と変わらず艶やかで……

「茉莉、久しぶり」
「えっ……夢?」
「ふはっ、夢なわけがない」

 悠はふわりと微笑むと、私の父に名刺を差し出しながら語りかける。

「宝生さん、はじめまして。わたくし酒類の輸入卸売業者をしております『株式会社乙羽』のニューヨーク支店長を務めます、乙羽悠と申します。『宝生フーズ』さんと業務提携についてのお話をさせていただきたいのですが、お時間いただけますでしょうか」

 ――えっ?

 一体彼は何を言っているのだろう。

 『株式会社乙羽』とか支店長とか。
 寝耳に水すぎて理解が追いつかない。

 パニックがおさまらないうちに、今度は悠の後ろに控えていた人物が口を開く。

「宝生さん、わたくし『KUONホテル』代表取締役社長を務めております久遠臣海と申します。こちらの乙羽悠から御社の窮状を伺いました。差し出がましいようですが、私がお役に立てると思います。今から別室でお話しできないでしょうか」

「それは願ってもないことです。ありがとうございます!」

< 39 / 51 >

この作品をシェア

pagetop