カーテン越しの君【完】

内緒の時間




保健室のベッドが埋まっていて、利用を断わられる日もある。



「具合悪いんだったら早退する?ベッドは二つしかないから」

「先生、一つはセイくんが使ってるんですか?」


「うん。彼は仕事が忙しくて寝る場所がここしかないから、そっとしてあげてくれる?もう単位が落とせないし、こうでもしてあげないと午後の補修授業に出席出来ないの」



セイくんは学校で特別扱いされている。
保健室のベッドを他生徒に譲れないくらい大事にされている。






時に悲しいニュースもある。


彼はいつも保健室にいるわけではない。
当前だけど、授業を受けたり仕事が入ってる日は保健室にいない。


だから、彼との会話は限られた時間内で交わす。



「何処に行っても誰かしらに追われるから、学校が一番楽。外を歩く度に他人に写真を撮られるし、有る事無い事書かれてSNSで飛ばされるし」

「芸能人って大変なんだね」


「だからいつもこの安全地帯にいるんだ」

「学校はセキュリティが厳しくて安全だもんね」


「ねぇ、あの歌が聴きたいからまた歌って」

「うん、いいよ」


「でも、先に飴食べたい」

「じゃあ、またカーテンの下から手を伸ばして」



彼に会えた時は胸がときめく時間。

最近は養護教諭が室内にいる時でも、小声でやりとりして、カーテンの下から飴を渡す。


ほんのり温かい指先が触れる瞬間は、私にとって幸せな時間。


彼と会えた時間は、皆川くんから飴を貰っていたあの時のように、一つ一つ思い出として刻まれていく。



隣にいると思うだけでドキドキするから、ひょっとしたら彼の声と歌声に惚れてるのかもしれない。


菜乃花からは、顔を見たら残念かもよって意地悪を言われたりするけど、顔を知らないからこそ余計に興味が湧いてしまうのかもしれない。
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