恋がはじまる日
 閉会式が終わり教室に戻る途中、「美音!お疲れ!」と後ろから声を掛けられた。

 声の主である椿はうんざりといった表情で言う。


「校長先生の話ほんと長すぎ。自分の学生時代の話まで始めちゃうんだもんなぁ」

「あはは、校長先生の高校時代すっごく楽しかったんだろうね」

 一部始終をしっかり聞いていたわけではないけれど、校長先生の学生時代トークが長いのは、最早教師陣もぼやくレベルである。


「ところで美音、怪我平気?これから打ち上げやるって話になったんだけど、行けそう?文化祭の打ち上げもできてないから、体育祭と合同でってことで」


 打ち上げ?私はきょとんとしてしまった。いつそんな話が出ていたのだろう。


「怪我は平気だよ。打ち上げってこれからやるの?」

「うん、まぁさっき決まったばっかだから、当然来れないやつもいるだろうけど。集まれるやつだけでもやろうって話になったんだよ、校長先生の長い話の間に」


 なるほど、そうだったのね。それなら知らなくて当たり前だ。閉会式は出席番号順で並んでいるから、私のところまで回ってこなかったのだろう。三浦から佐藤まで距離があるし。また教室に戻ったらその話になるのかな。


 じゃあ、藤宮くんは打ち上げの話知ってるのかな?椿と出席番号近かったと思ったけど。


「美音?」

「え?」


 私がぼんやりしていると、椿は勘違いしたのか尋ねてきた。


「もしかして今日、なんか用事あった?」

「あ、ううん!ないよ」

 私がそう否定すると、椿は目を輝かせる。

「じゃあ一緒に行こうぜ、打ち上げ!」


 あんなにたくさんの競技に出ていたというのに、よくもまあそんなに体力があるものだと思うくらいには、椿に疲れた様子は全く見られなかった。まぁ、ただ単に私の体力がないだけなのかもしれないけど。藤宮くんにも言われたし。


「うん!行こう!」

 私は元気よく答えた。

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