恋がはじまる日

泡沫の夢


 新学期が始まって、数日が経ったある日の昼休み。
 友人の当番の代わりで、私は校庭にある花壇に水をやっていた。

 春は彩り豊かな花々が多く、見ているだけで心までも華やかな気分になる。自然と鼻歌まで口ずさんでしまう。水を浴びた花々は気持ち良さそうに陽の光を反射させた。


 暖かくて穏やかな陽気、お昼寝したら気持ち良さそう!


 ふと花壇のさらに奥、お昼ご飯やおしゃべりに生徒達が使っているテラス席に、とある男子生徒の姿を見つけた。

「あ…」


 先日転校してきたばかりの藤宮くんだ。机に突っ伏して寝ているように見えるけれど、この陽気だし、お昼寝でもしているのだろうか。


 彼とは新学期の一件以来、隣の席ではあるけれどほとんど話せていない。


 藤宮くん、少し苦手かも…。何を考えているのか分からないし、話し掛けても冷たく返されるだけだしなぁ。私のことが嫌いなのかもしれない…。


 私が一通り花壇の水やりを終えても、彼が全く動かないので少し不思議に思った。お昼寝するのに適しているとは到底思えない硬いテラス席で、こうも身動きしないものだろうか。身体が痛くなりそう。


 寝てるだけだよね?体調悪くてぐったりしてるとか、そういうんじゃないよね?


 少し迷ったけれど、前者だと思うけれども、念のためと私は自分に言い聞かせ、彼の顔が見える近さまで近付いてそっと顔を覗き込んでみた。
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