恋がはじまる日

 なんとも掴みどころがないというか、自由気ままというか、まるで猫みたいに気まぐれな人だ。

 彼のいなくなった席にはみーちゃんが引き続き気持ち良さそうにお昼寝をしていた。

 私はその隣に腰を降ろすと、優しくみーちゃんの背中を撫でた。ふわっとした毛の手触りと、お日様の匂いのような、暖かな落ち着きのある匂いがした。人に慣れきっているみーちゃんは、私のことなど気にもとめず眠っている。

 藤宮くん、さっき笑ってたよね?もしかして、思ったより普通に話せる?もっときつい人なのかと思ってた。

 気まずい気持ちが少し軽くなったような気がした。

 なんでかな、ちょっと嬉しい。それにしても相変わらずそそっかしいって、ぶつかった時のことかな。教室での私の姿でも見てそう思ったのだろうか。私ってそんなに落ち着きないかなぁ。 

 そんなことをぼーっと考えているうちに、春の暖かな陽気に誘われた私も次第にうとうとしてきてしまった。瞼が重くなってくる。

 日差しが暖かくて気持ちがいいなぁ。少し寝ちゃおうかなぁ。

 そううつらうつらしていると、ふと、脳内にとある映像がちらついた。
 それはまさにこのカフェテラスのこの席。寒い中、誰かとおしゃべりをしながら温かい飲み物を飲んでいた。

 あれ?これいつのことだっけ?一緒にいた人って誰だっけ?椿?菅原先輩とか?男子生徒だった気がしたけれど、うまく思い出せなかった。

 これは夢?いや、冬にここで誰かとおしゃべりをした記憶がうっすらある、ような。
 なんで急にその時のこと…でもあんまり思い出せないな。まあいっか。きっとそのうち思い出せるよね……。


 気が付くと私もみーちゃんと一緒に、夢の世界へと旅立っていた。五限始まりの予鈴が鳴るまで、私は気持ちよくお昼寝をしたのであった。


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