恋がはじまる日


 大きく伸びをし、凝り固まった肩を回す。


「美音、そろそろ暗くなってきたから帰ろうぜ」

 椿が外と腕時計を見て言った。


「あ、本当だ!真っ暗だ」


 私も窓の外に視線を移すと、もうすっかり夜の帳が下りていた。なんだかんだ集中していたせいで、時計を見損ねていた。


「二人とも、今日はありがとう!おかげで今回の数学はいい点取れそうだよ!」

「いつでも教えるって!」

「お前は全く役に立ってなかったけどな」

「そんなことないだろ!」


 話しながら店の外へ出ると、しっとりと雨の匂いがした。大分前に上がっていたのか、地面はもう乾き始めている。夏を予感させるじめっとした空気を感じた。


「じゃ、俺と美音はこっちだから、またな藤宮」

「今日は本当にありがとう!また明日ね、藤宮くん」


 彼は「ああ」とだけ言って、私達とは反対の方へ歩いて行った。

 私と椿はそれを見送って歩き出す。


 勉強会楽しかったなあ。まさか藤宮くんが教えてくれるなんて思わなかったけど。数学って解けると楽しいんだ。藤宮くんのおかげで数学が好きになれそう!最初は感じの悪い人かと思っていたけど、全然そんなことないのかも。からかったりする、意外な一面も見てしまった。


 我ながら単純だとは思う。知らない一面を知れること、少し心を開いてくれたのかな、なんてきっと彼は私のことを友達だなんて思ってくれてはいないと思うけれど、やっぱり少し嬉しかった。出会い方はあまりよくなかったけれど、いつか友達になれるかもしれないよね。


 私は明るい気持ちになりながら、帰路に着いたのだった。


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