恋がはじまる日

「な、なに…?」


 顔を上げると睨むような彼とちょうど目が合った。傘の青が眩しく映る。


「お前、馬鹿か?」

「なっ!」


 突然の罵倒に驚いていると、私の肩が濡れないようにか更に引き寄せられた。あまりの密着度にさらに心臓が大きく跳ねた。近い近い…!

 藤宮くんは怒ったように続ける。


「幼なじみに傘入れてもらうとかしろよ」

「え?」


 私が何も言えないでいると、彼は面倒くさそうにため息をついた。

「どうしてお前は人を頼らないんだ?」

「え、え?」


 藤宮くんの言いたいことがいまいち分からず、私は戸惑うばかりだった。

 それよりもこの近すぎる距離が落ち着かなくて、何か考えてる余裕なんてないよ!


 先程よりも大きなため息をつく藤宮くん。その後に続く言葉は雨音で上手く聞き取れなかった。


「…風邪、引くだろ」

「なんて?」


 私がうまく聞き取れず困惑していると、彼は少し照れくさそうに小さく呟く。


「風邪うつされたら迷惑だから、入っていけば?」


 その言葉に私がきょとんとしていると、彼はそっぽを向いてしまった。


 え?なに?どういうこと?傘に入れてくれるの?


 胸にじわじわと温かい気持ちが広がっていくのを感じた。


「ふふっ」


 私はものすごく嬉しくなってしまって、ついに笑いがもれてしまった。


「なんだよ」


 嬉しい。ぶっきらぼうだし、言い方冷たいし、人をからかって楽しんでるような人だけど、やっぱり優しいんだ。勉強教えてくれたり、ノート運んでくれたり。ぶつかった時だって、私が離してほしそうだったから、手を離しただけなのだ。私が勝手に勘違いして怒っていただけ。多分言葉足らずで不器用なんだよね。それに、藤宮くんでも照れたりするんだ。また新しい一面を見てしまった。


「ありがとう!」


 私は精一杯感謝の気持ちを伝えた。しかし彼から返されたのは、実に彼らしい言葉だった。



「……やっぱ、なんかむかつくから出てけ」

「えっ!?」


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