恋がはじまる日
 女の子は私の姿を見ると、はっとしたような顔をした。


「あ、もしかして、三浦くんの幼なじみの…」

「はい、佐藤美音です」


 お互いぺこりと頭を下げ、挨拶をする。

 女の子はちょっと気まずそうに目を泳がせた。なにか言いたそうにしているような…。


 私はそこでふと気が付いてしまった。
 もしかして、これは!


 私は慌てたように少し早口で二人に告げる。


「あ!わ、私、用事あるんだった!ごめん椿、またあとでね!」


 自分でも驚くほどの大根演技でそう言うと、そそくさと廊下の向こうへと走る。

 私は、彼女が椿を誘いたいのではないかと勘付いてしまった。


「えっ!美音!?」


 後ろから椿が呼び止める声が聞こえたけれど、気にせず廊下の角を曲がる。そろりと覗くと、二人はまだなにか話しているようだった。


 おお、これが文化祭!好きな人とまわりたいとか、気になる人と一緒にいたいって気持ちはすごくわかるなぁ。せっかくの学校行事!仲良くなるチャンスだもんね!彼女が椿のことを好きって確証があるわけではないけれど、これぞまさに女の感と言うやつだ。うんうん、グッジョブ私。
 椿もモテるのかなぁ、友達も多いし、話してて楽しいもんね。そりゃモテるか。
 頑張れ~!陸上部の女の子!と心の中で声援を送る。

 それにしても。椿は彼女のこと、どう思ってるんだろう。
 そういえば椿の浮いた話など聞いたことがない。男女共に仲のいい人は多そうだけれど、好きな女の子の話は聞いたことがなかった。男友達にはそういう話をしていたりするのだろうか。幼なじみの私を差し置いて?ちょっと寂しいな~。落ち着いたら椿にそれとなく聞いてみようかな。
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