黒い龍は小さな華を溺愛する。
「最初だから緊張したけどなんとかやれそうだよ?」
常盤くんが前に言ってた通り、バイトしてる最中は忙しくて余計なこと考えてる暇なんかない。
でもいろんなお客さんと接することができるんだって、少し自信が持てた。
腑に落ちないような顔の常盤くんは、なんだからしくない。
手も離さないしっ!
「あの……手を……」
「やっぱ……バイトさせなきゃよかった」
「え、なんで!?」
「他の奴に見せたくねぇんだけど」
そう言って俯く常盤くんはやっぱりらしくない。
心臓の鼓動が速くなっていく。
「見せたくないって……それってどういう」
「沙羅!?」
その時、静まり返った住宅街に響き渡るくらい大きな声で私の名前が呼ばれた。
振り返ると母が驚いた様子でアパートの階段から降りてきた。
「お母さん!?」
どうしよう、常盤くんがいるのにっ……。
母は何のためらいもなしにこっちに駆け寄り、常盤くんのことを睨んだ。
「誰なの!?」
ここは学校の友達というべきなのか、彼氏……というべきなのか。
でも〝彼氏〟は本当の彼氏でもないし……。