私の想いが開花するとき。

私の思いが開花するとき


 もう何度と猫のように一人丸くうずくまって眠る夜を過ごしただろう。
 自分がセックスレスになるなんて結婚当初は思ってもいなかった。


 吉高里穂は吉高健治と結婚してまだ一年たっていない。いわゆるまだ新婚家庭なはずだ。それなのに、求められた事は結婚して一緒に住み始めた最初のこの日、たった一回だけ。ただ身体を重ねて性を吐き出すような義務的で寂しいセックスだったことを今もよく覚えている。


 健治との出会いはお見合いだった。親から結婚は、結婚はと催促され仕方なくしたお見合い。健治も親から結婚はと煩く言われていたようで「似た者同士ですね」と笑い合ったのをよく覚えている。いくらお見合い結婚だからと言っても何度かデートを重ね、恋心は無くてもこの人なら結婚しても大丈夫だろう、ごく一般的な幸せな家庭を築けるはず。そしてきっと、自分のなかにずっと居座る想い人のことを感じさせず忘れさせてくてるだろう、そう思えたから結婚を決めたのに。


「いってらっしゃい」
「ん、いってくる」


 今日も里穂は無理矢理作った笑顔で健治の背中を見送った。



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