彼とはすれ違う運命
彼とは、ことごとくタイミングが合わない。

大和(やまと)と抱き合うときに毎回紗英(さえ)はその言葉を頭の中で思い浮かべる。
情事の後の気だるげな雰囲気の中で衣服を身につけながら、まだベッドに横たわっている大和に声をかけた。
「先、出るね」
返事はない。見送ることもせずに背を向けたままの大和にそれ以上声をかけることもせずに、紗英はそっと部屋を出た。

廊下を足早に歩きエレベーターに乗り込む
と、紗英はやっと一息つく。
誰にも会うことはなかったことに対する安堵のため息だった。
紗英はエレベーターがエントランスにつくまでの短い間、左手の薬指に視線を向けた。
そこにはまだ真新しい指輪が光っていた。


大和と出会ったのは大学の時のバイト先だった。
同い年なのにどこか達観している彼の陰のある表情に、紗英は激しく心が揺さぶられた。
それが恋だったのか、それとも別の感情だったのか。
今でもその時の気持ちがなんだったのかわからない。

だけど、確かに言えるのは。
心が揺れた時に思っていたことは、大和に抱かれたい、そのことだけだった。
そしてその思いどおりに、出会ったその日のバイト終わりに二人で大和の家に行き抱き合った。

大和に彼女がいると知ったのは、全てが終わった後だった。
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