片恋プロセス

実在していた好きな人


幸太は決して私の前で、自分の
“好きな人”の話をしなかった。 
だからその人がどんな人なのか
想像もつかなかったし、 聞きたくも
見たくも無かったがその日は突然
やってくる。兄には来るな来るなと
言われたが、志望校なんだからと
最もらしい言い訳をして行った文化祭。
幸太と兄のクラスはカジノを
イメージしてゲームを用意しており、
それに合わせて衣装を(っと言っても、制服のジャケットを着ずに蝶ネクタイやネクタイを統一するというものだったが)
着ておりとても似合っていた。

「2人ともすっごい似合ってる!
 っぽいね!」

自分の表情筋がいつもの倍以上に
緩まっているのが分かる位
テンションが上がっていたその時。

「こうちゃん?」

「七海ー!」

明らかに声の感じも表情もいつもと違う
幸太がいる…間違いなく幸太の 
“好きな人”だ。
本当に存在してたんだ…
私の告白以来、“好きな人”を微塵にも
感じさせなかった幸太。
それは私に対しての配慮だったの
かもしれないが、もしかしたら
私の告白を断る口実だったのではと
期待すらしてしまっていた自分が
馬鹿みたいだ…
“七海”と呼ばれた人は、小柄で目が
クリクリしていてとっても
可愛らしい人だった。“こうちゃん”
なんて首を傾げる仕草も、
呼び方も全てが可愛い…
私なんて兄がそう呼んでるからと
年下のくせに呼び捨てなんてして
可愛げがない。何もかもが違いすぎる…
そんな考えが頭の中を駆け巡っている間も、幸太と七海さんの会話が
繰り広げられる

「来てくれたんだね?」

「ちゃんと休憩時間合わせて来たよー。
 一緒に回ってくれるんでしょ?」

「うん。あっ!俺の友達の圭輔と
 その妹の華ちゃん。華ちゃんは
 ウチの高校目指してるんだよ」

「わぁ、大人っぽい子だね。
 こうちゃんと同じ高校目指してるって
 事はすっごく頭いいんだね。
 藤岡七海です。こうちゃんとは
 幼馴染なの」

私が何も言えないでいると兄が

「こんにちは。楽しんでいってください。
 俺は華に学校案内しなきゃならないん
 で。行くぞ」

引っ張られるようにその場を後にした。

“休憩時間”
“一緒に回る”
“友達の妹”
“幼馴染み”

色々なキーワードが頭に衝撃を与える。
きちんと約束して来てるんだ…
私とは全然立ち位置が違うことを
実感させられ顔が歪み涙が溢れる。

「知ってたから、来るなって言ったん
 だね」

「泣く位なら止めればいい」

「もうちょっと優しい言葉かけてくれても
 いーじゃん」 

「お前が決めたことだ。好きな人が居るの
 も知ってただろう。寧ろあの場から
 連れ出してやったんだから感謝すべき
 だろう」

はじめから好きな人がいると言われていた
はじめから友達の妹

勝手に好きになって、勝手に勘違い
していただけだ。
そもそも中学生と高校生。
相手にされる訳が無い。

「庇護欲そそるような子ってあぁいう人の
 こと言うんだね。とっても可愛くて、
 守ってあげたくなるような人だった」

自分で言っておきながら、自分には
好きになってもらえる要素が
何ひとつないその事実に余計傷つく。
私はあとどの位このダメージに
耐えられるだろうか。
こんなにダメージを受けても
諦め方が分からない…
私には向けられない幸太のあの顔が
忘れられない。あの顔を私に
向けてくれたらどんなに嬉しいことか。
兄は“泣く位ならやめろ、
お前が決めたことだ”と言った。
じゃあ私はこれからどうしたい?
今、私が望んでも七海さんの位置
には絶対に行けない。
だったらどうする?諦める?
いや結局は嫌いになんてなれないのだ。
だったら何が何でも友達の妹、
勉強を教えてあげる人
教えてもらう人というポジションは
死守しなければ…
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