総長様は可愛い姫を死ぬほど甘く溺愛したい。


後ろから裕希さんの声が聞こえて、私はハッとして裕翔くんから離れる。

離れた私にむっとした様子の裕翔くんだったけれど、その言葉にイラッとしたのか裕希さんを怖い目で睨みつけていた。


「お前…、桜十葉にしたこと忘れたとか言わねぇだろうな」


心の底からゾワッとするほど低くて恐ろしい声で裕翔はそう言った。

私に、……したこと?

裕希さん、が?


「ああ、忘れたことなんかないよ。でも、お前だって俺と同類だろ?俺はもう諦めたのに、お前はまだ桜十葉に執着している。桜十葉がお前を好きになってくれたのだって、記憶を失っているからだ」


最後の言葉は小さくて聞こえなかった。でも、そう言って笑う顔が、なんだかとても怖かったのは気のせいだろうか。裕翔くんのおでこに青筋がいくつも浮かんだ。


「でも、お前だって俺と同じくらい酷いことをしただろう?……過去は、変えられねぇよ」


裕希さんが帰り際に、裕翔くんの耳元で何かを告げた。

その内容は、私の耳にまでは入ってこなかった。

背を向けて去っていく裕希さんを、裕翔くんが青筋を立てて睨んでいた。


“なにかを恐れるように”

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