総長様は可愛い姫を死ぬほど甘く溺愛したい。
悪夢の始まりは、一体どこからだろう。
いや、もうどこでもいい。
あの日、あいつが桜十葉をさらった日。
俺の心は一瞬にして冷たい氷の大地へと化した。
あいつさえ、いなければ。
あいつさえ、あのいつかの日に死んでくれていれば……。
そうしたら、桜十葉の“一部”が消えることはなかったのに…。
俺の秘めている秘密をすべて桜十葉に伝えたら、きっと側にいることなんてできなくなる。
本当は、側にいることすら許されていないはずだったのに…。
でも、あいつが来たって事は、もう桜十葉といられなくなるタイムリミットに近づいているのだろう。
「桜十葉、……今から話す話、聞いてくれるか?」
もう、覚悟した。
もう十分、覚悟していただろう。
そう自分に言い聞かせ、桜十葉の目を真っ直ぐに見つめる。
「…うん……?」
まだ何にも知らない純粋な桜十葉の瞳が不安げに俺を見つめ返している。
泣きそうだった。この事を俺の口から伝えるという事が、想像以上に苦しかった。
「俺たちが、ずっと一緒にいることは……できない。それが何でなのか知っているか?」
桜十葉の不安げな瞳から感情が消えていくような気がした。