総長様は可愛い姫を死ぬほど甘く溺愛したい。
続けようとした言葉を、そこで止めた。中学一年生の時の話をしたって、桜十葉は覚えていないのだから意味がない。
でも、桜十葉の表情はどんどんどんどん青くなっていく。倒れてしまうんじゃないかと心配になってしまうくらいにまで。
「ねえ、明梨ちゃん……っ!もっとその話、聞かせて!」
「え、…あ、うん」
私のことを忘れてしまっているのなら、当然高校入学以前の記憶は全て消えてしまっていると考えていた。でも、今の桜十葉の反応はまるで裕希という人を忘れていないかのよう。
疑問が、どんどん深くなっていく。
「桜十葉は、中等部の入学式の日に裕希って人と付き合い始めたんだよ。そう桜十葉が教えてくれたことがあったよ」
「私が……?裕希さんと……」
桜十葉が一気に憔悴したように見える。しかも、裕希さんって……。桜十葉はずっと、あの人の話をする時はいつも呼び捨てだったはず。
でも今は、まるで他人のようだ。
こんなことになるのなら、言わなければよかったのかもしれない。言っては、ダメだったのかもしれない。
ああ、バカだな……私は。
昔も今も。
桜十葉のことが大好きなのに、私はいつも余計なことを口に出してしまう。こんなにも不器用で、バカな私を桜十葉は受け入れてくれるのだろうか。