総長様は可愛い姫を死ぬほど甘く溺愛したい。


私は、気づけば自分の教室に帰ってきていた。中庭からここまで来た記憶が全くない。

私が、そんな……。裕希、さんと……?本当に?

明梨ちゃんのことを覚えていなくて、裕希という人との思い出も一切なくて、正直もうどうしたらいいのかわからない。

裕翔くん……。会いに、きて。もう、何もかも一人では抱えきれないよ……っ。

あの日、私は初めて裕翔くんのお兄さんだという裕希さんに会ったと思っていた。正確には、計画されていた拉致だったのだけれど、……。


『俺のこと、覚えて、ない……よね?』

『やっと、見つけた』


裕希さんの、とても悲しそうにしていた顔が今思い出された。私を見つめる瞳は、すごく切なそうな色をしていて揺らいで見えたんだ。

私は、一体どれだけのことを忘れてしまっているのだろう……っ?

明梨ちゃんは、私と初めて出会ったのはこの条聖学院の幼児部の入学式の日だと教えてくれた。

でも、私の記憶には明梨ちゃんとの思い出が全くなくて、明梨ちゃんを初めて知ったのは今年だ。

そして、裕希さんを知ったのも、裕翔くんにお兄さんがいると知ったのもつい最近のこと。

もしかしたら私は、本当に沢山、大事なことを忘れてしまっているのかもしれない。今まで思っていたことが、どんどん確実になっていく。

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