総長様は可愛い姫を死ぬほど甘く溺愛したい。
その時になぜだか分からないけれど、モヤッとした霧のようなものが私の頭を支配したようだった。そして、少しだけど、頭痛が起きて頭が痛くなった。
まるで、私が私自身を抑制するように。何かを思い出させないために。
その事実を知ることはまだまだ先のこれからの話。
***
私はお母さんの買い物を手伝い、家に帰った。
その頃にはもうすっかり太陽も沈み、夜の暗い静けさを漂わせる闇がもうすぐそこまで訪れていた。
一条は、はのんさんの所へと戻った。
やっぱりちょっと寂しいけれど、一条にもそういう大切な人がいたという事がそれ以上に嬉しかった。
これで、一条とはもう会えなくなる。
でも、一条がはのんさんと幸せになれたらいいな。私に言ってくれていた言葉や心配する顔、本当に大事に思ってくれていた事は多分全部本当の事だろう。
だって一条は、私の前では決して嘘なんて付かなかったから。でも、自分の好きな人に付いてしまうなんて、本当にバカだよ。
一条は不器用な所もあるけれど、とても完璧な執事だった。一条は一ヶ月間、私に全力で仕えてくれていたんだ。
「桜十葉、さっき一条さんと話していた事は本当の事なの?」
「う、うんっ……」
「そう、……裕翔くんが好きなのね。もう忘れていたと思っていたのに……」
お母さんの声が横切る車によって消され、最後の方が聞き取れなかった。