Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
「始めに言っておく。貴様の父、スーディは裏切り者として裁く必要があったが、娘の貴様にまで、罪を問うつもりはない」

 魔王は、そう前置きした。

「だが、この魔王領に住む以上は、この国に貢献してもらう。それが私の血族であってもだ。ネモよ」
「はっ」

 跪いていた彼が答えた。

「その娘は、貴様に任せる。戦場に立てるよう、戦士として鍛えてみせよ」
「承知いたしました」

 そのやり取りは、私を戸惑わせるばかりだった。

「どうした、チェント? 自分が、戦場になど立てるわけがないと言いたげな顔だな」

 魔王の言う、まさに通りだった。
 自分は兄とは違う。剣を持っても、あんな風に戦えるわけがない。

「なら、貴様は何ができるのだ? 何か特技があるのなら、聞いてやろう」

 そんなものあるわけがない。
 兄のように戦うでもなく、自分で仕事を探すでもなく、ただ生きてきただけの私には、本当に何もなかった。
 何も言えずに黙っていると、魔王が口を開いた。

「その男、ネモはな。他人の能力を見極めて伸ばすことにかけては、領内でも、突出しておる。事前に資質を見るという意味も含めて、貴様を迎えにやらせたのだ」

 私の能力……? そんなものがあるだろうか?

「ネモに師事して、何の成果も上がらない時には、貴様の処遇も再検討してやろう」

 これ以上話すことはない、と魔王は言葉を切った。

「では、失礼いたします。行くぞ」

 彼──ネモは、立ち上がって一礼すると、出口に向かって歩き出した。
 私は、戸惑いながら、慌てて彼の背を追った。



「ここがお前の部屋になる」

 謁見の間を出て、案内された先は、城の一室だった。

「明日から訓練を始める。今日は体を休めておけ」
「あ、あのっ……」

 言うだけ言って、立ち去ろうとする彼を思わず呼び止めた。

「なんだ?」
「わ、私に……あの……」

 私に才能なんてあるのかな? と聞こうとして、

「……なんでもない。ごめんなさい」

 聞けなかった。
 お前に才能などない、お前には何もない。
 そう言われるのが怖くて。
 自分に何もないことは、充分、自覚しているつもりだった。
 だが、あらためて、他人の口からそう聞かされるのは、怖かった。
 彼は、黙って踵を返し、立ち去った。



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