Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 片方は、ネモだった。
 私を探しに来てくれたのだろうか?
 それは、ただの義務感によるものなのかもしれないが、それでも私にはうれしかった。
 すぐにでも、近くまで行って声を掛けようと思ったところで、もう1人の話す声が聞こえてきた。

「ようネモ、こんなところで会うとは、奇遇だな」

 声の主は、あのルンフェスだった。

「お前がなぜ、こんなところにいる?」
「ただの訓練だ。今から戻るところでな」

 そういうルンフェスは、随分と疲れた様子だった。
 この山は、いるだけで体力を奪われる。
 訓練のために、長くここにいたというなら、頷ける話だったが、

「わざわざ、獣を連れて訓練か? ここは獣と散歩に来るところではあるまい」

 獣……?
 ネモの言葉にはっとして、ルンフェスの後方を見た。
 ひっ……!?
 私は、思わず、悲鳴を上げそうになって、自分の口を塞いだ。
 ルンフェスの後ろにいたのは、暗闇に2つの目を光らせた、大きな獣だった。
 忘れるわけがない。
 山の中腹で、私を襲った獣──あのヘルハウンドに間違いなかった。
 なんで、あの人があの獣を連れているの……?
 あの時、私に襲い掛かったヘルハウンドは、今はネモをじっと睨んでいた。

「あ? そんなん、俺の勝手だろうが? こいつは俺が手塩にかけて育てた奴だぜ。女1人、手懐けられないお前とは違うんだよ」

 言って、ルンフェスは、獣の頭を撫でる。

「……チェントに何をした?」

 ネモは、静かな声で言った。

「何のことかな? と言いたいところだが、面倒臭え。教えてやるよ」

 あっさりと、ルンフェスは白状した。

「あの女は、死んだ。こいつの爪にかかってな」
「なんだと!」

 ネモの表情が変わる。
 ルンフェスはそれを笑った。

「くくく、傑作だぜ、その顔。そんなにあの女が大事か? 今のは冗談だ、安心しな。俺はあの女の最後は見届けていない」

 今のところはな、とルンフェスは続けた。

「あの女は、崖から落ちたんだよ。こいつから逃げようとしてな。ドジな女だぜ。探し回ってたら、こんな時間になっちまったわけだ」

 手間をかけさせやがって、と毒づく。

「なるほど、お前1人では勝てないと見て、ヘルハウンドまで持ち出したわけか」
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