Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 彼女も騒ぎを聞きつけながら、逃げそびれた1人なのだろう。慣れない手つきで槍を構えながら、隠れて騒ぎが収まるのを祈っていたのかもしれない。

「あんた……チェント!?」

 驚いた声。彼女の声を聴くのも、随分久しぶりだった。

「ヴィレントから聞いた。あんたが魔王軍に付いたって。自分が何をやっているかわかってるの?」

 彼女は槍を構えたまま、強気に言った。
 以前のようにまた説教でもする気だろうか? 自分の立場がまるで分っていないようだった。

「だから何? あなたには関係ない話だと思うけど?」

 私は冷ややかにそう返した。

「関係あるわ。私はこの戦いが終わった後もヴィレントと共に生きていくの。これ以上、ヴィレントの邪魔をしないで!」

 そうか。そういえば彼女は兄の恋人だった。ならば……
 ──彼女を殺せば、私の苦しみを兄に思い知らせることができるだろうか?──

「ねえ、シルフィ。さっきからあなたは随分攻撃的だけど、今の状況をわかってるのかな?」

 私は赤い剣をちらつかせながら、彼女に笑いかけた。

「馬鹿にしないで! 私だってヴィレントにいつも稽古をつけてもらってるのよ。あんたなんかに……」

 私は、彼女の構えた槍を一振りで叩き斬ると、右腕を軽く斬りつけた。

「……っ!?」

 先端の無くなった槍を取り落とし、悲鳴を上げて右腕を押さえる。
 まだ腕を浅く斬られただけだというのに、大袈裟な人だと思った。
 稽古……記憶をたどると、彼女は確かに兄に度々せがんでは、戦う稽古をつけてもらっていたことを思い出した。
 ただし、それは戦闘訓練というにはあまりにもお粗末なものだったと記憶している。
 デタラメに木の棒を振り回す彼女を、兄が適当にいなすだけ。兄の方にも真剣さは見られない。2人でただじゃれ合っているようにしか見えなかった。
 私に力と自信をくれたネモのそれとは、まるで違った。

「弱いね、シルフィ。あなたはそうやって何もしないで、ずっと兄さんに守られて生きてきたのね」

 いつかの彼女の言葉を、そのまま返してやった。
 彼女は歯を食いしばって痛みをこらえながら、私に反論してきた。

「あんたには、ヴィレントの苦しみなんてわかんないでしょうね。育ててくれた相手に平気で刃を向けるあんたには!」

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