Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 胸を撫で下ろす。この魔法を実戦で使ったのは初めてだった。作戦前よりガイアスから指示されていた通りに動いただけだが、予想外の戦果に自分でも少し驚く。
 今まで、この魔法を使ってこなかった理由はいくつかある。
 まず、準備から発動まで時間がかかること、準備段階で決めた座標から狙いを変えられないこと。狙いがばれてしまえば、接近するルートを変えるだけであっさりかわされてしまう。
 次に、射程が弓ほど長くないこと、準備から発動まで完全に無防備になってしまうこと。戦場で調子に乗って悪目立ちした魔導士が、射程外から射抜かれるのはよくあることらしい。
 魔王軍には私以外にも魔導士達はいるが、希少であり、無駄死にさせないためにも戦場での運用は限られるらしい。
 さらにもう1つの理由として、1発あたりの体力の消耗が激しいこと。

「お前の才能を、ただの砲台として使い捨てるのは惜しい」

 ネモが言った言葉である。訓練で試したことはあるが、その時は今の竜巻魔法を5~6発も撃てば逃げることもできないほど消耗してしまった。
 連発すれば、その後に接敵しても剣を握って戦うのは困難になってしまう。
 故に、剣の才も同時に持ち合わせていた私に、ネモは魔力剣を用いて戦うことを薦めたのだ。それは間違いではないと思う。
 だが、こうやって状況を絞れば、範囲攻撃魔法も生きる。要は使い過ぎなければいいのだ。

「よくやった。見事だ」

 ガイアスが横に並んで言った。

「敵に追撃をかけるぞ! 俺に続けぃ!」

 後ろの味方に号令を掛けると、自らは飛竜を飛ばし、敵部隊に突進していった。味方もそれに続き、一斉に進軍を開始した。
 私はそれを横目で見送りながら、気持ちを落ち着かせる。
 まだ敵味方は入り乱れていない。また範囲魔法の出番はあるかもしれない。
 私は、第2波の準備をした。
 だが、その必要はなかった。近づいてくる確かな殺気。足音。
 ──来た。
 まだ乱戦が始まったわけではない。今、私の立っている場所は敵軍には全く食い込んでいない。周囲にも大勢の魔王軍兵がいたはずなのに、それをものともせずに蹴散らして近づいてくる。
 ──来た!
 それは側面から、その剣は、その刃は、私のいた場所を横薙ぎに一閃した。
 襲撃に構えていた私は、余裕をもって攻撃をかわすはずだった。
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