夢を叶えた日、一番にきみを想う
「あなたが、名城尚樹くん?」

指定された席に座ってスマートフォンをいじっていると、頭上から声をかけられる。
気怠さを感じながらも、ゆっくりと顔をあげると、見慣れない女の人が立っていた。

……こんな先生、いたか? 

「今日の授業を担当する、吉川沙帆(よしかわさほ)です。よろしくね」

先生は近くにあった椅子を持って来て座ると、「今日は英語の授業だよね?」と俺に尋ねる。

「……そうですけど」
「よかった」

先生は、安心したように微笑んだ。

「えーっと……、それで今日は、前回の続きの」
「あ、沙帆ちゃん!」

少し大きめの声が、教室に響き渡る。
俺の勉強記録を読んでいた先生は顔をあげると、クルッと後ろをむいた。
(いつき)。どうかした?」
「宿題しているんだけど、分からない問題があって、教えてほしい」
「今日出した宿題? もう宿題始めたんだ。偉いじゃん」

先生は俺に「ちょっと待っててね」と伝えてから立ち上がった。

「私、今から授業なんだ。今日、何時まで塾にいるの?」
「最後までいるつもり」
「じゃあ、この授業が終わってからでもいいかな?」
「うん! 自習室で待っておく」
「ありがとう」

授業の始まりを知らせるチャイムが鳴ると同時に、先生は戻ってきた。

「お待たせ。それで、今日の授業は」
「あの」

先生の言葉を遮る。

「期待しないでください。俺、親に言われて塾に通っているだけなので。さっきのあいつのような、やる気とか無いですから」

「……そっか」

先生は、めくっていた教科書をパタンと閉じて、俺を見る。

「じゃあ、今日は英語の授業、辞めようか」
「……は?」

今、何て言った?
「授業辞めよう」と言った?

混乱している俺に、先生がふわりと笑いかける。

「その代わり、教えてよ。尚樹くんのこと」
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